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楽しい投資研究所の 特製 会社分析レポート
分析対象:ハイビック株式会社
※巻末に読者さんへのスペシャル オファーがあります。
はじめに
こんにちは。楽しい投資研究所の庄司卓矢です。今回は読者さんからのリクエストをもとに、ハイビック株式会社を取り上げました。
決算書を読み解くカギは、部分部分にとらわれるのではなく、そこに記された情報を組み合わせ、関連付け、会社をひとつの生き物のようにイメージすることです。
実際、投資家にとって決算書は最も重要な情報のひとつです。投資成果をポジティブで豊かなものにしたいと思うならば(そうでない人はめったにいませんが)、投資をする前に、投資先の会社を深く理解しておくことが大切です。
自分が深く理解できる会社だけに投資する、この方針を貫くことができさえすれば、投資家は、長期に渡ってかなり豊かなリターンを手に入れることができるはずです。
このレポートを手に取ってくれたあなたのような方に、決算書を読むこと・読み解くことがどれだけ有益かを、少しでも感じ取ってもらえたら、それだけでこのレポートを著した甲斐があったというものです。ここでこうして、あなたに巡り会えた幸運に感謝を。
庄司 卓矢(ハンドルネーム:ばへっと)
楽しい投資研究所
[ 本 編 ]
ハイビック株式会社とは、どんな会社なのか?
木造住宅構造材プレカット製品を主力とする。木材市場も運営。
【参考】プレカットとは?
「プレカットとは、建築用の構造材を現場で使用しやすいサイズや形にあらかじめ工場で加工しておくこと。これにより現場での作業を軽減することができ、建築期間を短縮したり、人件費の抑制につながる」(AllAbout用語集より)
「従来、建築現場で木材を加工していた方法に比べ、工期短縮などによるコストダウンが図れる。大工職人等の技量や建築現場の気象条件等のさまざまな不安定要素に左右されることなく、均一な部材を安定して調達できるなどのメリットがある一方、複雑な仕口には対応できない、基本的に部材の選定ができないなどのデメリットがある」(Wikipediaより)
ハイビックの主要なビジネスとは?
(1) 住宅資材製造販売事業: 在来木造住宅プレカット製品及び2×4プレカット製品の製造販売、建材、住宅設備機器、木材等の一般建築業者への販売
(2) 住宅施工事業: プレカット製品の一般建築業者への施工販売、在来木造住宅の一般ユーザーからの請負及び増改築
(3) その他: 不動産賃貸および不動産販売等
企業グループは親会社のほか、子会社7社、関連会社2社からなる。
事業構造の全体像を把握するのに便利なので、H19/3期の有価証券報告書に記載されている【事業系統図】を転載する。
これまでの実績を眺めてみよう
直近5期のメジャーな指標をグラフにしてみた。目で見える形にすると直感的に把握しやすくなる
(単位:百万円)
なかでもしっかり見ておきたいのは資本効率、つまりROE(自己資本利益率)。5期推移を眺めるに、15%前後で推移、直近のH19/3期は17.8%。個人的にこのくらいの水準は好みだ。期待は高まる。
潜在株式あるが、希薄化割合は小さいこと
一株当たり当期純利益はH19/3期32.39円。
潜在株式調整後一株当たり当期純利益は32.24円。
潜在株式とは、これから発行される可能性のある株式のこと。
ハイビックの場合、ストックオプションがあるため、将来オプション保有者が権利を行使することによって、既存株主の株式価値が薄まる(希薄化する)可能性がある。
その影響を加味して計算されたものが「潜在株式調整後一株当たり当期純利益」というもの。
H19/3末時点では、希薄化効果はすでにあるも大きくはなさそうだ。
フリー・キャッシュ・フローが一貫してプラス(黒字)であること
キャッシュの流れは、利益よりも、なによりも大事だ。
H19/3期の営業活動によるキャッシュ・フロー(営業CF)は+13億円、投資活動によるキャッシュ・フロー(投資CF)は△7億円。
営業CFと投資CFを併せた純額は+6億円。
ここでは営業CFと投資CFの純額をフリー・キャッシュ・フロー(FCF)とみなす。
ハイビックのFCF、直近5期はいずれもプラスを維持している。好感。
(単位:百万円)
自己資本比率のこと
自己資本比率の高さは財務の足腰の強さを端的に表す。
H19/3期、ハイビックの自己資本比率は34.3%。低くはないが高くもない。
売上高は右肩上がり、その理由
売上高は直近5期を見る限り、一貫して増加してきている。
その背景には、他社の買収・子会社化を続けて実施してきたこともあっての規模拡大。
見逃してならないのは多額の「のれん」を計上していること。(H19年3月末)
翌期にその大部分(約10億円)を減損損失処理。結果的に高くついた。
残るのれんも約2億円、資産項目に残存(H19年9月末時点)。
後でも触れるが、粗利率は低下傾向。価格競争激化。「採算性を考慮しての価格見直し」とはつまり値下げのことなのだろう。原材料である資材の価格上昇も利幅を縮めているもよう。
市場の値動き・他社の価格引下げに引きずられて販売価格引き下げざるをえないのは、「プレカットはハイビック製品でなくちゃ」といった顧客の間での存在感、ブランド力の弱さが根っこにあるものと推察。
ところで、ハイビックは木材市場を全国的に展開。木材流通のインフラを所有、というのは興味深い。
純利益も右肩上がりであること
純利益も売上高と同様、事業規模の拡大に応じて増加基調。
小技的な視点として、受注残高を読むという見方もある。販売高と同時に受注残を読むことで、翌期の売上が上振れするかそれとも逆か、短期的な予測がしやすくなる場合がある。
ハイビックは売上規模の拡大と同時に受注数量残も前期比増。ただ問題は、価格引下げ圧力および資材価格の上昇による利幅の減少傾向が出てきていること。
もしもハイビックのプレカット製品(特に「構造材プレカット製品」。最も取り扱い規模の大きい品目)に触れられる立場にいる場合は、その同業他社に対する品質や評判をぜひ知っておきたい。顧客の声を複数聞くことができればなお良い。
事業の種類別セグメント情報を眺めてみよう
事業の種類別セグメント毎の業績はいずれも黒字。セグメントとはくくり、区分のこと。ハイビックはビジネスを3つのくくりでとらえている。それぞれいずれも営業利益は黒字と立派なもの。
僕のすすめる分析方法は数字をビジュアル化(見える化)すること。エクセルのグラフ作成機能はとてもありがたい。
ハイビックの事業を3つに区分した情報がせっかくあるのだから、それぞれその実績を見ておこう
売上(H19/3期)の中身を円グラフで表してみた。(単位は百万円)
それぞれの事業が稼ぎ出した営業利益(H19/3期)(単位:百万円)
それぞれの事業について、簡便的にフリーキャッシュフローを計算してみた(H19/3期)
※算式は、営業利益+減価償却費−資本的支出
事業の種類別のキャッシュの流れが健全かどうかを知りたかった。結果はいずれもプラスで一安心。
(単位:百万円)
以上のセグメント別分析から分かったのは、圧倒的に重要なビジネスとは「住宅資材製造販売」であること。この会社に投資しようと考えるのなら、この分野の知識をどれだけ深められるかがカギとなる。
というわけで、住宅資材製造販売ビジネスの実績を見ておこう
(単位:百万円)
(注1)H19/9期は半期(6ヶ月)決算
(注2)H19/9期(半期)の「簡易CF」は記載していない(データ不足)
気になるのは売上高に占める営業利益の割合が右肩下がりであること。要注意。
せっかくだから、他の事業の業績実績も見ておこう
住宅施工ビジネス
(単位:百万円)
前年度の半期決算も眺めるに、住宅施工販売は下半期に多くなる傾向にあるらしい。しかし営業利益率の減少は懸念要因。
ラストは不動産賃貸・販売ビジネス。有報・半報上の記載は「その他」となっている。
(単位:百万円)
率だけ見れば、不動産賃貸・販売ビジネスは強い。惜しむらくは規模が極めて小さいこと。営業利益の全体に占める割合は1%
自己株式の取得を予定していること
ハイビックは自己株取得枠を設定している。
H19年5月の取締役会決議で30万株、上限取得価額総額1.8億円を設定。このことから単純に上限単価を計算すると一株当たり600円となる(1.8億円÷30万株)。
つまり経営陣は、自社の株をこの水準だったら割安と見ているということ。
ここで注目すべきは、H20年3月期の上半期で会社が実施した自社株買い。
【自己株式等】という箇所と【連結貸借対照表】をあわせて見てみた。自己株式数は57,800株の増加。同時に自己株式の簿価は25,808千円増えている。この増加分から推測するに、会社はこの期間、市場から一株当たり平均450円弱で自社株を買い集めていたと見て取れる。
会社を最も深く良く知る立場にいる経営陣が自社株を買い取る価格、これは大切にすべき情報だと個人的には思ったりする。
筆頭株主は経営トップ(代取会長)であること
会社の筆頭株主は轄p剌、事の19.68%。
次いで代表取締役会長でもある高井勝利氏個人の10.57%。
大株主上位10者のうち、高井姓の者は他に2人、尚子氏(3.01%)と勝永氏(2.04%)。
筆頭株主の杉商事の住所は会長の高井勝利氏と同じ栃木県宇都宮市。高井氏と関係の深い会社かもとネット経由で調べてみた。結果、会長の高井勝利氏が100%持分を所有する会社であり、代表取締役は高井尚子氏が務めること(H16年8月時点)が判明。
ところでH17/3期の決算短信では、杉商事はハイビックの親会社と明記されている。
けれど直近の短信にその旨の記載はない。
杉商事所有の議決権割合は微妙に減少していることもあるし、「親会社」とはされなくなった理由があるのだろうが、高井姓の持分と杉商事の持分を合わせると持分割合合計は35.3%。このことは覚えておくべきことがら。
要するに、依然として高井氏の一族が主導権を握る会社であるということ。
流動比率が100%未満であること
連結貸借対照表を見るに、流動資産の額が流動負債の額を下回っている。
大雑把に言って、短期の債務を返済するために既存の流動資産だけではカバーしきれていないことを意味する。
1年以内に返済期日が到来する短期の債務を返すためには、借り替えるか、別途資金を調達する必要に迫られるということ。
資金の調達と運用との間に、長期短期のミスマッチが存在する点、資金繰り的な課題があるということか。
粗利率が下落傾向であること
売上総利益(粗利益)の売上高に占める割合であるところの粗利率(私は個人的に、粗利益を会社の利益稼得力の源泉と見ている)、ハイビックの場合、直近年度の粗利率は13.3%。
この粗利率が下落傾向にあるのは気になる点。ビジネスのうまみが減少してきている。
(単位:百万円)
「のれん」が10億円資産計上されていること
連結貸借対照表(H19/3期)に記載の資産の中に「のれん」が10億円計上されている。
ここでいう「のれん」とは、他社を買収した際に、その純資産時価に比べて大目の対価を支払ったことから生じた「資産」。
会計ルール上は資産であっても、のれん自体はどこに売ることもできない。ある意味「擬制資産」。
一般論として、「のれん」が巨額であればあるほどに企業買収が高値づかみであった可能性が高くなる。個人的にこういうものはないものと考えて、投資の可否を考えたりしている。
実際、のれんの大部分はH20/3期の上半期に減損処理されることとなった。
これが響いてH20/3期の通期で見ても最終赤字と見込まれている。
他社の買収は簡単ではない。
オフバランスのリース資産・リース債務が3億円あること
連結貸借対照表に載っていないリース資産とリース債務がそれぞれ3億円ある。
なぜ載ってこないのかといえば、それは現行の会計ルールが掲載しないことを認めてしまっているから。
この国際的に見てもゆがんだルールはH20年4月以降、徐々に是正されていく予定。
決算書上はオフバランスとなってはいても、実際あるんだから、この事実は認識しておくべし。
他社株式に結構投資していること
親会社単独の決算書を眺めると、その保有する投資有価証券が約6億円ある。
中身をのぞいてみると、「LBトリガー型三菱UFJフィナンシャル・グループ鞄]換可能債」なるシンプルとはいいがたい仕組債が約2億円、大建工業の株式1.2億円、三菱UFJフィナンシャル・グループの株式が0.9億円などなど。
連結ベースでのこれらの含み益は、資本の部の「その他投資有価証券評価差額金」において表わされている。金額は△0.1億円。つまり含み損ということ。
H19/9期の中間決算は最終赤字であること
直近の中間決算(H19/9期)の当期純損益は△6億円の最終赤字。
売上高は前年同期比伸びているのに、粗利率はさらに低下して12.8%。
これが響いて経常減益。売上高経常利益率は4.3%に下落。
さらに追い討ちをかけたのは前述の「のれん」を減損処理したことによる損失の計上△10億円。
有望と見込んで買収したはいいけれど、実績が追いつかず、のれんという資産を計上するだけの超過収益力はないとみなされたからこその「のれん」の減損損失。
残るのれんは約2億円。前述の通り、こういうものは、最初から存在しないものと見て投資判断を下したい。
営業キャッシュ・フローがマイナスであること
H19/9期は営業CFも一転してのマイナス。
なぜかといえば業績の悪化が最大の要因。営業利益が前年同期に比べて約4割減と大幅に下落。事業規模の拡大による粗利益の増加はいいのだが、それ以上に人件費負担が重くのしかかってきた様子。
それに加えて仕入債務の減少が響いている。仕入債務の減少(つまり返済)額は13億円。さらに税金の支払額も5.8億円と軽くなかった。
監査報告書は無限定適正意見であること
監査を請け負っているのは新日本監査法人。日本の監査業界を寡占する3大巨人の一角をなす監査法人。
直近2期の監査報告書を読んでみたが、特に気になることは記されていなかった。無限定適正意見。要するに監査の結果、特に問題はなかったですよ、ということ。
真実の姿に迫ってみよう(連結貸借対照表の調整)
H19年9月末時点の半期報告書に記載されている連結貸借対照表によれば、自己資本比率は30.6%。
しかしこの数値には「売れない資産」であるところの「のれん」2億円が資産計上されており、なおかつリース資産・リース債務(いずれも5億円)が簿外処理となっている。
なので、これらを反映させることによって、より実態に近い財務数値を導き出せると考える。
具体的には、残存するのれんを資産価値無しとみなして全額損失処理してしまう。
同時にリース資産とリース債務をそれぞれ資産と負債に計上する。
その結果、調整後の自己資本比率は29.1%へと微妙に減少(△1.5%)。
PBRも0.69倍から0.71倍に微妙に上昇(株価115円で算定)することになる。
さて、現在の株価をどう見るか
これを書いている現在の株価は115円(2008年1月29日終値)。
業績を見るに、粗利率の低下は会社を取り巻く環境の厳しさが増していることを反映しているのだろう。
この点要注意ではあるけれど、いずれのセグメントも営業黒字を維持しているのは立派なもの。
H19/9中間期は最終赤字だったがこれはのれんの減損(評価減)が最大の要因。
また建築基準法改正に伴って、住宅の着工件数が減少したことにより主力のプレカット販売が急減したことも足かせとなったもよう。
H20/3期は最終赤字(一株当たり純損失11.05円)と会社は見込んでいることからPERは算出不可能。
ただし、その翌期は当期のような巨額ののれん減損損失が計上される可能性は低く、よほどのネガティブな事象が生起しない限り、最終損益は回復する可能性も高いと見る。
会社四季報に記載されている翌H21/3期の予想一株益(23.5円)から計算すれば、現行の株価のPERは4.9倍となかなかに目をひく数値。
試練のときを迎えて株価も急落しているが、やはり注目すべきは主力のプレカット製品。
もし自分が投資を考えるなら、その品質や会社の技術力を理解することに多くの時間を注ぐことだろう。
同業他社との競争力を考えて、独自の強みを活かし続けられると判断できたのなら、投資対象として魅力的といえよう。
ただ、独自の強み(つまりブランド)がなければ、遅かれ早かれ経営環境はさらに厳しいものとなる可能性が高い。
要は、投資対象たる会社をありのままにどれだけ深く理解できるか、それが投資のリターンを大きく左右する。正しい知識と時間だけが、投資家の背負うリスクを大きく削り取ってくれるのだ。
著者紹介
このレポートを書いた人: 庄司 卓矢 (ハンドルネーム:ばへっと)
楽しい投資研究所 代表 / 投資家 / 公認会計士
山形県生まれ。東京在住。東北大学経済学部卒。96年、朝日監査法人(現あずさ監査法人)入社。02年、庄司公認会計士事務所設立。08年、楽しい投資研究所 http://www.1toushi.com/ を設立。趣味の合気道は2段。
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[ 参考文献 ]
" ハイビック梶@有価証券報告書(H19/3期)
" ハイビック梶@半期報告書(H19/9期)
" 会社四季報(2008年1集)
[ 参考サイト ]
" AllAbout http://allabout.co.jp/
" Wikipedia http://ja.wikipedia.org/
今回も、最後まで読んでださいまして、どうもありがとうございました!
2008年2月1日
庄司卓矢
楽しい投資研究所
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